棋界のスーパースター羽生善治九段について思うこと

2021年10月1日午前10時、王将戦の挑決リーグ永瀬王座,羽生九段の対局が始まった。両者今期のリーグ戦初登場。永瀬王座は直近で伊藤匠四段に金星を献上したばかりで2連敗は避けたいところ。羽生九段は6連敗で臨んだ本局、リーグ戦初戦に勝利し連敗をストップさせたいだろう。熱戦になること間違いなしと誰もが期待した。長い序盤から中盤に差しかかるあたりで永瀬王座がやや優勢になって以降、羽生九段がAIの示す候補手の4,5番目の手を指し評価値を下げ続けた。気がつけば20%。1分将棋に突入するとあっという間に評価値は1%に。19時29分、羽生九段が投了した。

 

中継の途中で事前に録ったインタビュー映像が流れた。幾つかの質問の中で印象的だったのが「現代将棋についてどう思うか」というもの。羽生九段の答えを要約すると「AIの時代になり自分もソフトは使っている。が、それほど頼ってはいない。大事なのは『感覚』と『自分らしさ』だと思う」と。

 

ワタシ如きが天才棋士に対してモノ言うのは本当におこがましいことだと思う。でも、棋界の誰もが言わないから敢えて将棋ド素人の私が言わせて貰う!

 

羽生九段を語る時、沢山の賞賛の言葉が並べ立てられる。その一つに『勝率』があった。「年度1回でも7割を超えたらスゴイことなのに、羽生先生の場合『通算で7割超え』ですからね、本当に信じられません」と、羽生戦の中継で解説を務める棋士の誰もが感嘆した。高い勝率は羽生九段の凄さを顕す物差しになっていたことは間違いない。

 

が、去年あたりから様子が変わってきた。昨年度の勝率は0.543、今年度は4勝10敗で0.286。遂に通算勝率が7割を切ってしまったのだ。天才棋士たる所以の『通算成績7割超え』という肩書きを失ったのだ。タイトル100期と同様、ただ周りが騒いでいるだけで本人的には『99期と100期で何が違うの?何を大騒ぎしてるの?』と思っているかもしれないし、通算の勝率には拘っていないのかもしれない。でも、ファンにとっては大事件なのだ!そんな日が来るなんて想像だにしていなかったことが現実に起きてしまって激しく動揺しているのだ。

 

羽生九段には強くあってほしい。どんなに若手が台頭してきても、現タイトルホルダー4名による『4強時代』と言われようが羽生九段には強くあってほしいのだ!投了する姿を極力観たくないのだ!

 

だから言う!ド素人の分際で言わせて貰う!

 

『感覚』などという曖昧で抽象的なものに頼って勝負をするな!もう、そんな時代ではないことを悟ってほしい!特にタイトルホルダーやA級棋士を相手に勝ちたいと思うなら尚のこと。藤井三冠や渡辺名人のようにもっと『現代将棋』を学び、勉強してほしい。そして、羽生研やVSは一旦やめることを検討してみてほしい。豊島竜王が対人との研究会をすべてやめるに至った理由について「その手はどうなんですかね、なんて言えないでしょ?誰も言わないんですよ。結局一番厳しいことを言ってくれるのがAIなんです」と仰っていた。これは立場が偉くなればなるほど、本人的にはどんなに厳しい指摘でも受け入れるつもりだったとしても、七冠を独占した上に永世七冠達成、おまけに国民栄誉賞までとった棋士に一体誰が何をアドバイスできると言うのか!研究会は、下手をすると羽生九段が一方的に教える立場になり、アウトプットばかりで得るものは少ないのではないかと危惧してしまう…

 

羽生九段は人と関わるのが好きなんだと思う。実際に対局をすることで勝負勘を鍛え大局観を掴み強さを維持してきたのだと思う。でも、(失礼だが)成果が出ていない今、そのやり方を見直す必要がある。棋士個人事業主であるならば、結果が出ていないイコール経営方針を見直すことは至極当たり前のことだと思うからだ。

 

羽生九段がトップに君臨していた頃の将棋と現代のトップ棋士の将棋は全然違う。タイトルホルダーやA級棋士に感覚で勝負を挑むのは無謀だということをシカと胸に刻んでほしい。「どんなに研究しても結局は研究から逸れる。だから経験と感覚を大事にしたい」などと尤もらしい言い訳をしないでほしい。羽生九段とトップ棋士の違いは『読みの深さや正確性』と『ソフトによる研究量』だと思う。最近の羽生九段の対局を観てて思うのは、明らかに羽生九段の方が先に『研究から逸れたと思っている』ということ。例えば今日の対局。羽生九段が『研究から逸れた』と思った局面で、恐らく永瀬王座は『この局面は研究済み』だと思っていたのでは?

 

コロナ禍になって1年半、毎日将棋を観てきた。中継されたものに関してはほぼすべて観てきたと言っても過言ではない。藤井三冠が候補手に無かった手を指した時、指した直後こそ評価値を下げるが、時間が経つにつれ評価値が上がっていくというケースを度々目にしてきた。つまり、AI以上に藤井三冠は読んでいるのかもしれないのである。一方で羽生九段はと言うと、候補手に無い手を指した時は完全に『悪手』でしかない。解説者は「気づかなかった。なるほど」などと感心して見せるが、評価値は下がったままだ。時間が経っても決して上がることはない。誰も羽生九段に対してマイナスの評価が言えないのである。羽生九段の実績が凄すぎて言えないのだ。これこそ羽生九段にとってはマイナスでしかなく、だからこそ羽生研なんぞやめてしまえと言っているのだ。

 

羽生九段は今こそ弟子をとるべきだと思う。「希望者全員を弟子にする訳にいかない。断ったら可哀想だから弟子をとらない」とその理由を述べているが、羽生九段に必要なのは若くて才能豊かな研修生との交流だと思う。羽生研をやめたら寂しくなると思うなら、尚更に弟子をとったらいいと思う。将棋の勉強はPCオンリーで対人とは指したことが無いなどというような子であれば最高!そういう子こそ持って来いだ!ニュータイプとの触れ合いこそが羽生九段に刺激を与えプラスに影響すると思う。

 

羽生九段自身が、B級やC級に落ちてもいい, 引退に追いやられない程度の成績が収められればいいと思っているのなら今のままのやり方でいいのかもしれない。でも、A級や1組残留, タイトル戦に出たいと思うのであれば現状打破は絶対条件だと思う。歳をとればとるほど変化することは怖いし億劫だと思うが恐れずに立ち向かってほしい。慣れ親しんだ居心地のいい場所から抜け出して厳しい状況に身を置いてみてほしい…

 

昔からのスタイルを頑なに崩さず負け続けて落ちていく羽生九段を見るのはただただ忍びないが、シン・ハブヨシハルがチャレンジした結果であれば、どんな結果でも受け入れるし応援できるし尊敬できる。

 

50代でのタイトル奪取、見てみたいなぁ…